ハードよりソフトで
~民話、伝承に付加価値を~
人吉が観光に力を入れていると聞いていた私が、市民に聞いた事がある。「人吉で観光と言えば?」と。答えは、「球磨川下りと人吉城址」。この二つに加えて、新たな観光都市・人吉を考えるときの1つの方向性を、短い人吉滞在中の体験を参考に、私なりに提案してみたい。
これからの人吉の観光戦略の基本方針は「観光客・市民・人吉の自然とのふれあいを通じた観光都市づくり」である。
この基本方針の背景には、時代の大きな流れがある。それは、一言で言えば、「観光飽食の時代」と言えるであろう。特に、日本人は、どこそこに旅行慣れしてきている。あちらこちらで、様々なものを見聞きして、観光客は「珍しいもの」「大きなもの」等には、すでに飽きつつある。グルメやショッピングのために、海外まで飛ぶ時代である。観光客の観光地に望むものが変化している。
■非日常の中での日常
現在の観光客は、日常の生活で疲れた精神をリフレッシュするために、単なる非日常的な意味での旅行を求めているのではなく、非日常のなかでの日常を求めている。
自分の地域(日常)を離れ、見知らぬ土地(非日常)へ行き、その土地の住民の生活(非日常での日常)を体験すること、これこそが観光客の求めている「観光資源」である。観光資源は、「ここだけ」でしか提供できないものの典型であり、しかもこの中では人吉市民の市民性や観光客とのふれあい等、「こころ」が重要なファクターとなる。すなわち、人吉での「衣・食・住」及び文化、それに自然とのふれあいを中心にすえたプログラムの設定が問題であり、ハードよりソフトの充実度で勝負ということであろう。
○短期的なホームステイ制度(日本人も可)もしくは民宿村を作り、旅行者が気軽に人吉の家庭に入れるようにする。
→市民とのふれあい
○バードウォッチングや山菜摘み、アウトドア・クッキングが、何も知らない旅行者でも体験できるような設備(ハード)とガイドブック(ソフト)を揃える。
→自然とのふれあい
○民話や伝承を利用し、付加価値を感じさせる。例えば、くま川鉄道のすべての駅に各史跡にちなんだ民話伝承を張りつけ、「民話鉄道」として売り、観光客のイメージに訴えかける。
→歴史(文化)とのふれあい
たとえば、これらのガイドが人吉市民なら誰でもできるような形で取り組むことを考えてみたらいかがだろうか。
そして、この仕掛けの情報発信には、こちらからTVやラジオ、新聞は使わない。『るるぶ』等の旅行情報誌や各種ガイドブックに働きかけて取り上げてもらうのが、自分自身の体験から考えても一番効果的である。また、イベントであればテーマを絞った形で行う方が、効果が上がるであろう。人吉では4月13日に村おこし連絡協議会"じゃっ隊"を中心に、新しい方法での「焼酎と山菜料理」を、一つの提案として実際に食べながらシンポジウムを行うというイベントがあるが、このような提供という形を取ったやり方もおもしろい。他では、サインの充実ということも加えておきたい。
■足元を見つめ直す
最後に、本稿の形で観光に対する取り組みを行ったとき、この形だと市民誰もが、観光客を通して人吉の観光と人吉市を見つめ直すきっかけになるという副作用が考えられる。観光客向けのツリーウォッチングや竹細工による竹とんぼづくりなどを通して、市民にとっても「ただの山しかない人吉」が「魅力ある山を有する人吉」に変わる。自分のふるさとを見つめ直すことによって再び、ふるさとに対する愛着が湧く。市民に対してのこの効果も強調しておきたい。
日刊人吉新聞(1991年4月15日)より
