
月刊誌「地域から日本を変える」(1992年6月号)
北海道上川郡下川町。名寄から東に18キロメートル、オホーツク海まで50キロメートル。冬は氷点下30度を超す日もある厳寒の山間地。かつては鉱山と国鉄で昭和35年には人口が1万5550人あった下川町も、いまや人口は5000人を切り「過疎もいいとこ」。北海道特有の広く車の姿がない道路の脇にも、人影はあまりない。
ちなみに昨年は、かぼちゃが1200個、シバレ缶詰が20個、認定証は3部売れた。
■都会からのUターン8人
「心産業交流塾」というネットワークの場も提供している。近隣の町づくりグループの人たちと交流をおこなったり、講師を招いて、アイデアを練るためだ。
コロンブスの卵は昭和57年、橋紀昭=はし・のりゆき=さん(52)が発起人となって始めた。メンバーは8人。さまざまな職業をもっているが、共通することは、彼らはすべて東京または、他町村からのUターン組だという事だ。メンバーの1人、安藤達彦さん(28)は筑波でコンピューターのソフトウエアをつくっていたという。
このグループの特徴は、自然体にある。しかもこれが徹底されている。何かをやらねばならないという義務感、気負いといったものがない。やりたいからやる。無理はしない。マイ・ペース。自由な雰囲気。
「基本的には、会員一人ひとりが自分の生活を豊かにするため、自分づくりのためにやっている活動なんです。これが結果的に大きな影響力を持てばうれしいですね」と、橋さん。
しかし、「自分づくり」という謙虚なことばの裏に、下川町の将来や、北海道の将来を思うあたたかさが潜んでいる。
「コロンブスの卵」の定期的な活動は、月1~2回ほどの例会だけ。あとは、数々のイベントや行事に合わせて活動をする形式になっている。会費は年12,000円。町からの補助金はもらわない主義だ。会の運営は会費と、最近多くなった原稿依頼や講演の謝礼でまかなう。
すぐに産業化を考える地域づくり運動も彼らは好まない。「町が活性化するということは、産業がおこったとか、人が増えたということではない」「金もうけを考えていたら、こんなアイデアは思い付かなかった」と会員の1人は言う。
■アイディアを意味だす卵
会長はいるけれど(現会長は橋さんの後を継いだ遠藤さん)本人いわく「俺は話題提供者」。上下のない会員間の関係がユニークなアイディアを生み出す俘卵機ともいえるだろう。
コロンブスの卵の創造の場は、扉がガタピシいう傾きかけた農家の古屋である。「らくがきカボチャ」で協力してくれている農家が空き家を無償で貸してくれたものだ。ベニヤの壁には、ビッシリと訪問者の落書が。
「多くの人が協力してくれた。ここにある備品は座布団から湯飲みまですべて寄付いただいたものばかりだよ。我々の活動にいろんな形で参加してもらったり、このように協力してもらったりしたときは涙が出るくらいうれしいものだよね」とは、遠藤さん。
■大ヒット「アイスキャンドル」
コロンブスの卵の生んだアイデアの中でも、いまや札幌の雪まつりを含め、全道に広がってしまうほど大ヒットしたのが昭和61年に生まれたアイスキャンドルである。
氷の容器にロウソクを入れるだけで現出する幻想的な雰囲気。美しさと簡便さがヒットの大きな要因である。
作り方は簡単。バケツに水を入れ、「シバレる」日に外において置くだけ。外側だけが凍ったところで、中の水を追い出せば、ロウソクを入れる容器が出来上がる。後は、その容器にロウソクを置けば、立派なアイスキャンドルになる。
空気までが凍って光るマイナス20℃の冬の下川町。寒さと静けさの緊張に、川が、山が、空気が、そして足もとの雪までもが自らを輝かし始める。その中に、本当の温もりを与えてくれるゆらめく2000個の炎が見える。コロンブスの卵の生んだアイスキャンドルの炎はあたたかく北海道を燃やす。 (坂井 学 松下政経塾政治専科)
月刊誌「地域から日本を変える」(1992年6月号)

昭和40年9月4日生まれ44歳。
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